セビジャーナスその4
数々のフラメンコ・アーティストと親交のある映画監督、カルロス・サウラが手がけた傑作映画のひとつに、『セビジャーナス』がある。この『セビジャーナス』を皮切りに、『フラメンコ』『イベリア』『フラメンコ・フラメンコ』と一連の作品が続くわけだが、今は世を去ったアーティストをも至芸を目の当たりにすることができるのだから、映像とは実にありがたいものだ。そのうちのひとりが、2006年に61歳の若さ(あえてそう言いたい)で亡くなったロシオ・フラード。20世紀後半を代表する歌手・女優だった彼女は、映画『セビジャーナス』の中で、伝統的なスタイルにのっとったセビジャーナスを5つ歌っている。
セビジャーナス ハマス・メ・キセ
祭りに欠かせないのがセビジャーナス。定番のものから新しく作られるものまで、セビジャーナスの世界は毎年更新されて広がっていく。それに合わせて人々は踊り歌い奏で、文字通りの春を満喫するのだ。
タンゴ・デ・ラ・レポンパ
タンゴ・フラメンコにはたくさんのバリエーションがある。歌い手の名前を冠したものが多いことも述べた。そうしたタンゴのうちのひとつが、地中海に面する街マラガに生まれたラ・レポンパが歌った、タンゴ・デ・ラ・レポンパだ。
ルンバ:ソン・ソン・セラ
フラメンコの世界にもカンシオン・ポル・ブレリア(ブレリア仕立ての歌謡曲)という1ジャンルが存在するなど、カンシオンの人気はとにかく高い。人気の歌謡曲は、何にでも生まれ変わる。ブレリア、タンゴ、そしてルンバ。非常にフラメンコらしくなるケースもあれば、もともとの歌謡曲のカラーをしっかり残す場合もある。今回の『ソン・ソン・セラ』は、後者の典型だ。
セビジャーナス ポル・ラ・シエラ・デ・アルメニア
フラメンコ界にも有名な兄弟姉妹はいろいろいる。たとえばウトレーラのフェルナンダとベルナルダ姉妹、ニーニャ・デ・ロス・ペイネス(パストーラ)とトマス・パボンとアルトゥーロのパボン兄弟、ラモン・デ・アルヘシーラスとペペ・デ・ルシア、パコ・デ・ルシア兄弟、最近ならファルキートとファルー兄弟……。そして、前回から取り上げているパコとペペのトロンホ兄弟も、忘れてはならない。もっともフラメンコ界においては、彼らはライバルと言うより常に支え合い、高め合う存在、という印象が強い。
アルボレアス
フラメンコ版「ロミオとジュリエット」あるいは「ウエストサイドストーリー」ともいうべき映画、『バルセロナ物語(原題Los Tarantos)』。1963年公開されたこの映画には、カルメン・アマジャのほか若き日のアントニオ・ガデスやエル・チョコラーテらが出演し、主演のサラ・レサーナを盛り立てた。
ヒロインを演じたサラ・レサーナ自身も名の通った踊り手であったが、この映画の価値を後世に留めることになったのは、なんといっても、カルメン・アマジャの功績が大きいだろう。敵対する二家族の一方の家長役を演じたカルメン・アマジャが、その存在感を最大に発揮する場面は、映画が始まって30分ほどで訪れる。息子と恋仲になった敵対する家の娘を、嫁として認める場面。そこで彼女が見せるあざやかすぎる踊りと唄は、まぎれもなく映画の中の白眉となっている。
ブレリア(アンダ・ハレオ)
詩人・劇作家フェデリコ・ガルシア・ロルカ(1898〜1936)が収集した『13の古謡』。前回取り上げた「18世紀のセビジャーナス」と並び、13曲の中でも人気の高い曲をもうひとつ紹介しよう。第1曲「アンダ・ハレオ」だ。もっともこちらは、セビジャーナスではなく、景気のよいタイトルが示すとおり、ブレリアの調子を持っている。
ただしブレリアとは言っても、こんにちブレリアやソレアで一般的にみられる8音節3行詩、いわゆるテルシオ(tercio)と呼ばれる形を取ってはいない。ロルカが収集した民謡、つまり古くから人々の口を介して伝えられたままの、最もスタンダードな詩の形を、「アンダ・ハレオ」は持っている。そう──〈コプラ〉の形を。