ファルーカ

 フラメンコの始まりは、“持たざる民”たちが身ひとつで始めた歌、そして踊りだった。しかし中には、歌──カンテを伴わず、踊りとギターの掛け合いを見せ場としているナンバーもある。そのひとつの典型例が、ファルーカだ。

 ふつうの辞書でfarrucaを引くと、「頑固な、挑戦的な」といった意味が出てくる。しかしフラメンコにおいてfarrucaとは、「ガリシアまたはアストゥリアスから出てきたばかりの人」に対するアンダルシア人の呼び名だという。興味深いのは、かつてスペインの植民地であったキューバでも、farrucaといえば「ガリシア人またはアストゥリアス人」を指すことだ。そしてその呼称が示すとおり、アンダルシアから生まれた多くのナンバーと異なり、farrucaのルーツは北部スペインの、ガリシアまたはアストゥリアスとされている。ガリシアやアストゥリアスといえば、スペインの中で最北の、ほとんどポルトガルに近いところだ。緑が多く雨も多く、乾いたアンダルシアに比べ湿潤な土地柄。そのためだろうか、そこで生まれたファルーカも、メロディー自体はどちらかというとしっとりとしたメランコリーな曲調をそなえている。そこに乗った歌詞も、「ガリシア娘が泣いていた/ガリシア男が死んだから/上った先で、苦労重ねたそのあとで」といった調子。エル・ロリが創唱し、20世紀初頭にマヌエル・トーレが歌って当たりをとった。しかしどちらかといえば、ファルーカを広く世に知らしめたのは、冒頭にも記したようにその踊り。セビージャ生まれで国際的に活躍したエル・ファイーコがギターのラモン・モントージャと組んで踊ったファルーカは一世風靡し、ホアキン・エル・フェオやエル・ガトといった後継者をも生む。さらに、スペイン民族楽派の大立者ファリャがバレエ作品『三角帽子』の中で主人公の粉屋にファルーカを踊らせたことで、人気は確定的となった。

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