カーニャ

 しばしば「ラ」という冠詞をつけて呼ばれることもあるカーニャ。そこには、それなりの理由がある。このカーニャ、数あるフラメンコの曲種の中でも、最も古くから歌われていたものとされるからだ。1850年以前から、ヒターノたちによって歌われていた記録が残っているという。
 その最大の特徴は、なんといっても、ラメントとも呼ばれる不思議なリフレインにあるだろう。どこかアラブ風味も漂う、一定の音程を保って繰り返されるリフレインは、カーニャのほか、同じく古い節であるポロにも登場する。こちらのポロはクラシック作曲家のインスピレーションを得て、よりドラマティックな歌曲や器楽曲に生まれ変わったりもした。しかし一方のカーニャは、フラメンコの世界に留まりつづけた。そのためか、一時は、忘れられたヌメロの仲間入りをしかけたこともあった。それを甦らせたのが、20世紀の偉大な歌い手、ラファエル・ロメーロだった。そして、彼の志を継いだのが、ロサリオ・ロペス、パコ・エル・ペカスという、いずれもラファエル・ロメーロと同郷の愛弟子たち。ロサリオ・ロペスはこの5月からティエント・タンゴの音源を通して紹介してきたので、耳馴染みの方も多いだろう。ここで、残念なお知らせをしなければならない。ロサリオはかねてから闘病中だったが、先日故郷のハエンで72歳の生涯を閉じた。けれど、彼女が歌い遺した数々の歌は我々の元にある。そして、ラファエル・ロメーロ直伝のカーニャはこの9月、もうひとりの直弟子パコ・エル・ペカスにより、東京で披露される予定だ。クルシージョも予定されているので、ぜひ楽しみにお待ちいただきたい。
 カンテ用のカーニャは、踊り用に比べるとかなりテンポも速くリフレインの数も入る場所も歌い手の好きずきだったりする。だが、歌に込められた格調は変わらない。次回ではその内容を、より詳しく見ていきたい。

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