タンゴ・デ・ラ・レポンパ

 この『カンテ指南』でも以前触れたように、タンゴ・フラメンコにはたくさんのバリエーションがある。歌い手の名前を冠したものが多いことも述べた。そうしたタンゴのうちのひとつが、地中海に面する街マラガに生まれたラ・レポンパが歌った、タンゴ・デ・ラ・レポンパだ。
 ラ・レポンパ、本名はエンリケータ・レージェス・ポラス。1937年マラガの下町の中心部に生まれ、1959年に没した。そう──カンテ界では伝説ともなっているこの歌姫は、わずか22年でこの世を去ったのだ。
 とはいえ、その22年の間にラ・レポンパは鮮やかなインパクトと大きな財産を残した。その最大のものが、タンゴ・デ・ラ・レポンパだろう。むろんタンゴばかりではなく、ブレリアやファンダンゴ、ブレリア・ポル・ソレアなども残してはいるが、やはり彼女の代名詞といえば気魄みなぎる鉄火肌のタンゴ。もっとも、完全に彼女が創唱したものかといえば、そうとも言い切れない。ラ・レポンパと同郷のカンタオーラで、ラ・レポンパの師匠にあたるラ・ピルーラがこのスタイルのタンゴを歌いはじめ、ラ・レポンパはそれを受け継いだというのだ。ラ・ピルーラも早世したため、録音が残ったラ・レポンパのバージョンが定着したこともあるのだろう。
 ただ、このタンゴを初め耳にした人は、首を傾げるかもしれない。「あれ、これってグラナダのタンゴじゃなかったっけ?」と。確かに、メロディーといい歌詞といい、現在タンゴ・デ・グラナダとして歌われることが多いのがこのタンゴでもある。たとえばタラントの後半に使われるタンゴとしてもしかり。これは、グラナダとマラガ、ともに海と山を持つふたつの県が隣り合っていることから、人々の行き来を通して自然に生まれた混ざり合いと思われる。その辺りもまた、フラメンコの面白みだといえる。

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