ブレリア
ブレリア(アンダ・ハレオ)

詩人・劇作家フェデリコ・ガルシア・ロルカ(1898〜1936)が収集した『13の古謡』。前回取り上げた「18世紀のセビジャーナス」と並び、13曲の中でも人気の高い曲をもうひとつ紹介しよう。第1曲「アンダ・ハレオ」だ。もっともこちらは、セビジャーナスではなく、景気のよいタイトルが示すとおり、ブレリアの調子を持っている。
 ただしブレリアとは言っても、こんにちブレリアやソレアで一般的にみられる8音節3行詩、いわゆるテルシオ(tercio)と呼ばれる形を取ってはいない。ロルカが収集した民謡、つまり古くから人々の口を介して伝えられたままの、最もスタンダードな詩の形を、「アンダ・ハレオ」は持っている。そう──〈コプラ〉の形を。

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ソレア
ソレア

数あるフラメンコの演目の中でも、とりわけ人気が高く、種類も多いもののひとつ、それがソレアだ。ソレア・デ・アルカラ、ソレア・デ・トリアーナ、ソレア・デ・カディス、ソレア・デ・ウトレーラ、ソレア・デ・フアニキ……地名や人名のついたソレアは、古今東西、あまた存在してきた。このソレア、正式には複数形でソレアレスと呼ぶ。標準スペイン語ではそれぞれ「ソレダー」「ソレダーデス」となる。その意味は「孤独」。複数形だと、「寂しい場所」という意味も生まれる。筆者手持ちの辞書には、感心なことにアンダルシア弁である「ソレア」「ソレアレス」も別項として載っている。
 では、ソレアは本当に「孤独」で「寂しい」曲なのだろうか。それだけなら、さまざまある12拍子系随一の人気を誇る曲になりえただろうか。

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フェデリコ・ガルシア・ロルカ
カフェ・デ・チニータス

詩人・劇作家、フェデリコ・ガルシア・ロルカ(1898~1936)が収集した『13のスペイン古謡』には、実にいろいろなキャラクターが登場する。恋に生きる男女の姿が、飾らない言葉で描かれている。
 もうひとつ、アンダルシアの古都グラナダ近郊に生まれたロルカにとって身近なものが、闘牛という文化。最近では動物愛護の観点からアンチ闘牛の動きも出ているようだが、アンダルシアやマドリッドでは今でも盛んに行われている。あの円形の闘牛場に足を踏み入れたときからそこにいる人間同士が共有する儀式めいた感覚には、独特のものがある。それに、雄々しく戦って散った闘牛は皆の称賛を浴び、すぐ食肉となるのだ。決して動物愛護の精神にもとるものではないと思うのだがいかがなものか。
 まあ闘牛の是非論はさておき、今回取り上げる『カフェ・デ・チニータス』の主役は、いわば花形をつとめる闘牛士だ。モデルのパキーロは実在の名闘牛士で、19世紀の前半活躍した人だった。そのパキーロが、カフフェ・デ・チニータスを訪れて……というのが、物語の背景になっている。

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ビジャンシーコ
アギランド(ビジャンシーコ)

1年を通して、スペインにはさまざまな宗教行事がある。三月のセマナ・サンタ(イースター)、続くフェリア、初聖体拝領祭、聖母マリアにまつわる一連の祭(巡礼祭、被昇天祭、無原罪の御宿り祭)……などなど。その最後を飾るのが、12月に控えるクリスマスだ。実際にはスペインを含めたカトリックの国の伝統では、翌年1月6日の「三賢人の日」、すなわち「公現節」までクリスマスシーズンが続く。この三賢人とは、メルキオール、バルタザール、カスパール。ベツレヘムの星を目にした彼らが東方から旅をし、聖母マリアとみどりごイエスのもとに辿り着いたのが1月6日だったのだという。彼らが贈り物として持参した黄金、乳香、没薬(もつやく)にちなみ、子どもたちは12月25日の朝でなく、1月6日にプレゼントをもらうのが古くからの習わしだった。なお、日本と違い、新年は文字通り「新しい年の始まり」に過ぎない。幸福を願う12粒のブドウを食べたり、祝宴をひらいたりと盛り上がりはするが、祝日なのはいわゆる元日のみ。2日からは普通に街が動き出す。

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ルンバ
ルンバ:ベルデ

この曲の人気を決定的なものにしたのが、カルロス・サウラ監督の『フラメンコ』のラストを飾るライブ・バージョン。こちらは当時スペイン国内で流行をみていたフラメンコ・ロックのスター、ケタマとのコラボレーションで、ケタマのメインボーカルであるアントニオ・カルモナとの掛け合いで唄っている。その軽やかなノリが、さらに多くのファンを獲得した。画面を埋め尽くして踊る少年少女の映像を記憶に留めている方もいらっしゃるだろう。マンサニータはその後も順調にヒットを飛ばしていくが、2004年、心臓発作のため48歳の若さで急逝する。サウラ監督の『フラメンコ・フラメンコ』にも「ベルデ」は、今度は幕開けの1曲として使われているが、やはりオリジナルの魅力には敵わない。

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ソレア・ポル・ブレリア
アマルゴのロマンセ

ロマンセとは、スペインに、というよりイベリア半島に古くから伝わる「物語歌」。無伴奏のものから、それこそ今日でいうソレアやブレリアなどの12拍子のリズムに乗せたものなど、スタイルはさまざまだ。

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