アマルゴのロマンセ

 さて、今回から趣向を変えて、ソレア・ポル・ブレリアの世界に入っていく当指南。最初はその導入として、詩人・劇作家のフェデリコ・ガルシア・ロルカが生み出した傑作ロマンセを取り上げる。
 そもそもロマンセとは、スペインに、というよりイベリア半島に古くから伝わる「物語歌」。無伴奏のものから、それこそ今日でいうソレアやブレリアなどの12拍子のリズムに乗せたものなど、スタイルはさまざまだ。「物語」というからにはそこには主人公がいて、その主人公をめぐるエビソードが物語られていく。その主人公という点では、この国は事欠かない。なにせ、都市ひとつにつき伝説の本が1冊書けるほどの、伝説の宝庫なのだから。身分の上下を問わず、王侯貴族から名もなき市井の男女までが、ロマンセにその生きざまを刻んでいった。ことに人々の心を魅了したのは、身分違いの恋、理不尽な権力に立ち向かうヒーロー、そして聖母や神がもたらす心温まる奇跡といった、自分たちの日常を少しわくわくしたものに変えてくれる、まさに「物語」の世界だった。そしてその物語が、必ずしもハッピーエンドではなく、往々にして人々の涙を誘う結末になっているのも、ドラマを好むスペインらしいとも言えるのではないだろうか。

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