アギランド(ビジャンシーコ)

 1年を通して、スペインにはさまざまな宗教行事がある。三月のセマナ・サンタ(イースター)、続くフェリア、初聖体拝領祭、聖母マリアにまつわる一連の祭(巡礼祭、被昇天祭、無原罪の御宿り祭)……などなど。その最後を飾るのが、12月に控えるクリスマスだ。実際にはスペインを含めたカトリックの国の伝統では、翌年1月6日の「三賢人の日」、すなわち「公現節」までクリスマスシーズンが続く。この三賢人とは、メルキオール、バルタザール、カスパール。ベツレヘムの星を目にした彼らが東方から旅をし、聖母マリアとみどりごイエスのもとに辿り着いたのが1月6日だったのだという。彼らが贈り物として持参した黄金、乳香、没薬(もつやく)にちなみ、子どもたちは12月25日の朝でなく、1月6日にプレゼントをもらうのが古くからの習わしだった。なお、日本と違い、新年は文字通り「新しい年の始まり」に過ぎない。幸福を願う12粒のブドウを食べたり、祝宴をひらいたりと盛り上がりはするが、祝日なのはいわゆる元日のみ。2日からは普通に街が動き出す。

 そのクリスマスシーズンを彩るのに欠かせないのが、一連の賛美歌だ。ビジャンシーコ、カンパニジェーロスといった名称で呼ばれるそれらの、リズムやメロディーはそれぞれだが、神の子イエスの生誕を祝ったり、クリスマスの平穏を願ったりする内容のためもあってか、皆がすぐに覚えて歌えるようなものがほとんどだ。そうしたビジャンシーコの一種が、今回取り上げるアギランド。聞き慣れない名称だが、もともとは「クリスマスの贈り物」を意味するaguinaldo(アギナルド)が訛ったものだとか。いくつか伝承されている歌詞があるが、今回は、北アンダルシアのハエン県に生まれ育ったカンタオーラで、ラファエル・ロメーロの弟子としても知られるロサリオ・ロペスが歌った、いかにもこの土地らしいバージョンを紹介する。

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