ルンバ:サルサモーラ
まだ続くルンバ・シリーズ。第3弾は最初に取り上げた「ソン・ソン・セラ」と同じ1974年に流行った1曲を紹介する。タイトルは「サルサモーラ(野いちご)」。ちなみにmoraのつかないzarzaは「イバラ」の意味になる。このイースターの時期、スペインを含むキリスト教国のあちこちで人類の救済を願って掲げられる、イバラの冠をつけたキリスト像を思い描く方も多かろう。これにmora(クワの実、木いちご)がつくと、素朴な野いちごzarzamoraができあがる。参考までに、zarzalは木いちごの茂み、zarzaparrillaはサルトリイバラ、zarzuelaはスペイン伝来の国民歌芝居サルスエラまたはごった煮鍋料理……だんだん頭がz漬けになってきたところで、zarzamoraに戻ろう。
しかし、ルンバ「サルサモーラ」の場合、素朴とはかなり縁遠い。もともと「ソン・ソン・セラ」の解説でも触れたように、1970年代といえば歌謡曲系のルンバが大流行した時代。「サルサモーラ」もそうした時代の空気をたっぷり吸って生まれたナンバーだ。流行らせたのは、女性ふたり組のラス・グレカス。だが、これを最初に歌ったのは実は、歌手・女優として活躍したローラ・フローレスだった。彼女が1954年に主演した映画『喜びのシスター』の中で歌ったのが、「サルサモーラ」だったのだ。そして作者は、ヒット曲を次々世に送り出したキンテーロ、レオン、キローガの黄金トリオ。流行しないわけがない。やはり歌謡曲の世界で名を馳せたロシオ・フラードもこれを歌い、さらにラス・グレカスに歌い手が変わっても、曲の人気は衰えなかった。
ラス・グレカスは、曲のサビの部分を抜き出して、よりエッセンシャルに、そしてよりセクシーに仕上げている。言葉数は多いが、サビの部分、レトラの前半とラストは繰り返しだし、ルンバならでのノリの良さでテンポよく歌い上げれば、存外に馴染みやすい。