アロスノのファンダンゴ

 ファンダンゴ・デ・ウエルバ。アンダルシアの中で最も西に位置し、首都マドリッドより隣国ポルトガルに出る方が近いウエルバ県、その民謡がフラメンコに取り入れられたもので、その数は70とも80とも言われる。──というようなことを、このカンテ指南の、第3回目で紹介した。
 そのときも触れたように、元々が民謡であるファンダンゴ・デ・ウエルバには実に多彩なバリエーションがある。
 いちばんわかりやすい区分は、地名を冠したパターンだ。いわゆる日本の「〜節(ぶし)」のようなもので、「ファンダンゴ・デ・〜」と呼ばれる地方的ファンダンゴは挙げれば限りなく出てくる。たとえば、ウエルバ、アロスノ、アルモナステル、エル・セーロ、サンタ・バルバラ、サンタ・エウラリア、バルベルデ……そして同じウエルバと言っても、よりアカペラに近かったり、ひときわ歌い回しにガッツを込めたりする歌い方もある。もうひとつは、歌い手の名を冠したパターンだ。エル・グローリアやエル・レボージョなど、あまりに個性が際立った歌い方からその名がスタイルに刻まれたケース。もっとも後者の場合は、名を冠するところまではいかなくとも、聴けば「ああ、これはあの人だ」とわかる場合もある。今回取り上げるアロスノのファンダンゴは、まさにそのケース。歌い手の名はディスクに記されてはいないが、聴けば、ファンダンゴの大名人であったパコ・トロンホの若き日の名唱だとすぐわかる。その貴重な歌唱が収められているのは、マドリッド王立音楽院で民俗音楽を究めたマヌエル・ガルシア・マトス教授が、実に100曲を超える民謡を4枚組LPに収録した一大コレクションの中の、アンダルシア地方編だ。若いパコ・トロンホが佳い味わいで歌い上げるアロスノのファンダンゴは、じゅうぶんに力を込めながら、すっきりとした後味の、恋唄に仕上がっている。

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