アレグリアス

このコラムでは、踊りに使われる曲を取り上げ、そこで歌われるカンテを、歌詞やスタンダードな構成とともにご紹介する。なかなか知る機会のないカンテの世界に、親しんでいただくきっかけとなれば幸いだ。

最初に選んだのはアレグリアス。スペインにあまたある民族舞踊の中でも、ことに名高いアラゴンのホタを、アンダルシア最西端の町カディスに定住したヒターノが取り入れて生まれたのが、アレグリアスとされている。辞書を見るとalegríaの項には「喜び」とある。しかしそれは、単純に浮かれ騒ぐだけの「喜び」ではない。明るい節まわしの中に人生の哀歓をたっぷり織り込んだ、実に奥深い喜びなのだ。

上にも記したように、アレグリアスの故郷はアンダルシア屈指の港町、カディス。古代ローマ時代から「ガデスの娘たち」と呼ばれる舞姫たちがいたことでも知られる。さまざまな曲種を生み出してきた〈フラメンコのゆりかご〉のひとつだが、特にアレグリアスは絶大な人気を誇るナンバーだといえよう。

むろん踊りを伴わないカンテの曲としても、アレグリアスは古くから愛されてきた。中心となるのはやはりカディスの歌い手たち──アウレリオ・デ・カディス、ペリコン・デ・カディス、ラ・ペルラ・デ・カディスら、芸名に「カディス」を頂く歌い手をはじめ、マノロ・バルガス、カマロン・デ・ラ・イスラ、チャノ・ロバート、ランカピーノなど。ほかにも各地の数々の名歌手が、アレグリアスを好んでうたってきた。

踊りとカンテ、両者のアレグリアスの大きな違いは、なんといってもその構成だろう。カンテの場合、踊りのようなシレンシオやブレリア・デ・カディスはつかず、アレグリアスのいわゆる〈本歌〉のみを歌う。今回の講座では踊り歌を意識してブレリア・デ・カディスを付した構成とした。次回は歌詞の具体的な内容や歌唱法に触れていきたい。

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