ティエント

 今回からしばらくは、シティオ塾のクラスで取り上げるティエントをご紹介する。
 前回紹介したビジャンシーコのアギランドは、この曲種に多い3拍子のリズムを持っていた。フラメンコというとどうしてもブレリアやアレグリアスのような12拍子が思い浮かぶが、2拍子、3拍子、4拍子、6拍子など豊富なバリエーションがあってこそ、フラメンコの楽しみも存在するというものだ。
 その中で、2拍子系の代表格といえば何といってもタンゴだろう。カンテ指南その2でも紹介したように、地名や歌い手、またはスタイルによって、いろいろなタイプのタンゴが生まれてきた。歌詞は8音節4行詩のコプラ仕立てで、2行目と4行目が韻を踏むのが決まりだが、繰り返しのパターンの多彩さが、タンゴの世界をおもしろくしている。タンゴには、タンギージョやガロティンのような軽快で明るい調べから、タラントのようなドラマティックな節まで、たくさんの仲間がある。ちょうどその中間辺りに位置するのが、今回の主役ティエントだ。
 ティエントtientoを辞書で引くと、「手探り」「用心深さ」といった意味がまず現れる。その名の通り、ティエントの曲調は、どこか後ろ髪を引かれるような、ほどよい重みを供えている。ちなみにティエントは、古くからイベリア半島に伝わっていた楽曲スタイルでもあった。特に有名なのは、ルネッサンス時代に盲目の作曲家・オルガニストとして名を馳せたアントニオ・デ・カベソンのもの。一見フラメンコのティエントと無縁のようだが、よく聴くと共通するコンパス感が流れているのがわかる。
 むろんひとくちにティエントといっても、タンゴ同様、土地やアーティストによって色合いはさまざま。今回のものは、20世紀の天才と呼ばれたニーニャ・デ・ロス・ペイネスのスタイルをベースに、典型的なメロディが連ねられていく。

コンテンツの残りを閲覧するにはログインが必要です。 → . 未入会の方→ 倶楽部のご案内