シギリジェーロの叫び
ヘレスのアグヘータ一族の真骨頂は、カンテ・ホンドの中で最も難しいと言われる「シギリージャ」において、いっそう黒い輝きを放ちます。二十年近い刑期を終え録音されたソロアルバム「アシ・ロ・シエント(俺はこう感じる)」(’01)に入る12曲目、「狂気のシギリージャ(Seguiryas de la locura)」の歌唱は、まさしくシギリジェーロ(シギリージャ唄い)の名に相応しい、圧巻のパフォーマンスでした。各レトラに冠された人名は、そのレトラを考案、あるいは知らしめた、19世紀ごろのカンタオールの芸名・略称です。
本作はヘレスの伝統あるペーニャ、ロス・セルニカロスによって監修・制作され、伴奏はデビュー当初からアントニオを良く知る地元の凄腕、アルベルト・サン・ミゲル。出所したばかりの30半ばのアントニオへ、周囲の温かい期待が偲ばれる盤石の体制でした。心の奥底を切り裂くようなこの歌声を、もはやナマで聴けないとは。浮世離れしたカンテの世界も、一般社会と同様、無常を避けられないのだと痛感する昨今です。