セビジャーナス ポル・ラ・マニャーナ

以前にも、ロシオ・フラードがカルロス・サウラの映画『セビジャーナス』の中で歌った「「Lo tire al pozo(井戸に捨てたわ)」を取り上げた。このようにひとつひとつ独立したセビジャーナスは、これまで見てきたもの(「Pasa la vida」や「Mira a la cara」)のように、3連目のリフレインが共通してはいないし、そもそも4番までがセットでもない。したがって、好きなように組み合わせることができる反面、とりわけ踊りに使う場合は、どれを歌うかあらかじめギタリストに伝えておかないと、とっさにキーを合わせてもらえない可能性があるので多少の注意が必要だ。しかしこちらの形式のほうが、型にはまっていない、本来のセビジャーナスの楽しさが味わえると思うのだがいかがだろうか。

とはいえ踊りのほうが概ね4番まででできている以上、とりあえず4つのセビジャーナスをここでは紹介したい。具合のよいことに、4つ雰囲気の違うセビジャーナスを並べてくれているのが、ウエルバを代表するアーティスト、パコとペペのトロンホ兄弟だ。彼らの生涯と功績は以前、アロスノのファンダンゴの回でも紹介した。なにしろアンダルシア8県の中で、言ってはなんだがひときわ地味なウエルバ県にあって、フラメンコ界に豊かな実りをもたらしているのが、ウエルバのファンダンゴ。その名手こそ、トロンホ兄弟なのだ。そして、ファンダンゴ同様、独特の渋みとひなびた明るさで魅力なのが、ウエルバのセビジャーナスだ。もうひとつのウエルバの宝、巡礼祭で名高いロシオの聖母をたたえたのが、今回紹介するセビジャーナス「Por la mañana(朝に)」。ウエルバのマリスマ(湿地帯)をゆっくり進むような、素朴で温かい印象のセビジャーナス・ロシエーラス(ロシオ巡礼のセビジャーナス)だ。

ウエルバに一時代を築いたパコとペペのトロンホ兄弟が、ふるさとの誇るロシオ聖母に寄せる素朴な信仰心をうたいあげたのが、今回取り上げている「Por la mañana(朝に)」だ。小さく愛らしい聖母に寄せて作られたセビジャーナスは数多くあるが、こうしたセビジャーナス・ロシエーラス(ロシオ巡礼のセビジャーナス)は、旅する巡礼たちが演じるもの。したがって、通常の踊り用の靴ではなく、編み上げのブーツを着用して踊るのが定番となっている。また伴奏には、定番のギターやカスタネットのほか、革張りの太鼓や、葦の棒に割れ目を入れて鈴などを付けたカーニャと呼ばれる打楽器が使われる。こうしたことも、独特の風情をこのセビジャーナスにもたらしている。
さてあらためて「Por la mañana(朝に)」。まずはこのセビジャーナスの主役たるla Virgen del Rocíoがさっそくお出ましになる。Rocíoとは「朝露」。つまり、ウエルバの湿地をみずみずしくうるおす朝露の聖母、それがロシオなのだ。したがってこれにつく形容詞は、「bonito」という男性形をとる。続いては、セビジャーナス・ロシエーラス名物の太鼓が登場する。それがすなわち「tamboriles」。アンダルシアのシンボルカラーである希望の「緑」と純潔の「白」に染め分けられた太鼓が告げるのは、「diana」すなわち起床の合図だ。こうして巡礼たちの1日が始まる。そして湿地をゆるやかに旅し、日が落ちるころになると、いよいよ巡礼たちにとって、お待ちかねの宴が始まる。ふたたび太鼓が鳴るが、今度の太鼓は「al baile」、踊りのリズムに合わせて奏でられるのだ。それは言うまでもなく3拍子の、セビジャーナスのリズム。人々は踊り、歌い、奏で、飲んで食べて1日の疲れを癒す。もちろん「flores, flores a ella」と、聖母に捧げる花も忘れない。こうして巡礼の唄は、毎年飽きることなく繰り返されていく。

Letra

Por la mañana, por la mañana


Por la mañana,
qué bonito es Rocío
(flores, flores a ella)
qué bonito es Rocío
por la mañana.


Por la mañana,
cuando los tamboriles
(flores, flores a ella)
cuando los tamboriles
tocan diana.


Y por la tarde
cuando los tamboriles
(flores, flores a ella)
cuando los tamboriles
tocan al baile.




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