ソロンゴ・ヒターノ
詩人・劇作家、フェデリコ・ガルシア・ロルカ(1898〜1936)。ドラマティックな生涯については、前回の『ラ・タララ』の項目でも述べた。彼が最期まで愛したグラナダの沃野は、今も優しい緑の色をたたえて、訪れる人を迎えている。
『ラ・タララ』と同じく『13のスペイン古謡』に収められ、非常に人気のある1曲が、『ソロンゴ・ヒターノ』だ。“ヒターノ(ジプシーふうの)”という形容詞をつけず、単に『ソロンゴ』と呼ばれることも多い。このソロンゴ(Zorongo)のように、サンブラ(Zambra)、サンガノ(Zamgano)などZで始まる曲が、どうした理由か、グラナダから多く生まれ、フラメンコに採り入れられている。Zというアルファベットが持つ独特の翳りが、イスラム教徒が最後まで守ろうとしたグラナダの雰囲気に合っているような気がするがどうだろう。
その『ソロンゴ』。『13のスペイン古謡』の中では、後半の10曲目に当たる。カスタネットを用いてクラシコ・エスパニョール(スペイン古典舞踊)のスタイルで踊られることも多い。その場合は、ミを基音とする“ミの旋法”の重厚感がより生きるブレリア調で演奏されるのが一般的だ。または、今回の参考音源で円熟のカンタオーラ、カルメン・リナーレスが歌っているように、抒情味豊かなタンゴのスタイルで歌われることもある。いずれにしても、曲も歌詞も、濃密な夜の気配が漂うひとふしになっている。ロルカ自身のピアノ、ラ・アルヘンティニータの歌と踊りによる録音も実に味わい深い。
『ソロンゴ』の名をことに高めているのが、「月は小さな井戸、花には何の値打ちもない……」と続くリフレイン。それを挟んで、8音節4行詩のコプラが連ねられていく。が、このコプラはどうも、ロルカが収集した民謡と、ロルカ自身が創作したものが絶妙に溶け合っているようだ。