104.ラテングラミー速報(マルティネーテ&ブレリア)
2023年11月23日
2023年11月16日(現地時間)、今年のラテン・グラミー授賞式は史上初めてアメリカ合衆国以外の地、スペインのセビージャで行われ、注目の「最優秀フラメンコアルバム(Mejor Álbum de Música Flamenca)」は、ニーニャ・パストーリの「カミーノ」(′23)に決まりました。
本シリーズでも一度取り上げていたアルバムで(第85回)、内容的にも充実の出来栄えゆえ順当な受賞と言えましたが、周囲を最も驚かせたのは、本公演の前に行われたプレガラでのカンテ・フラメンコです。
「あたしは牢屋に入れられた‥‥」と、いにしえのレトラで始まるマルティネーテ! リズムを刻む金床と鉄鎚、つまり本格的なジュンケとマルティージョがステージに持ち込まれ、きらびやかなムードの会場を、一気にカンテホンドの異世界へ引き込みます。身体を折って吐き出されるケヒオ――黒い慟哭に、“フュージョン女王”と称されるニーニャ・パストーリの素顔が露わになりました。サン・フェルナンド生まれの天才少女で、同地の英雄カマロンと知己のあるプーロなカンタオーラ――そのたぐいまれな本質は依然として健在だったのです。
続くブレリアでは、グラミー候補の一人でフラメンコ・ベーシストという鬼才フアンフェ・ペレス、そして共にマルティネーテを歌った、同じく候補のイスラエル・フェルナンデスらと怒涛のソニケーテを聴かせます。無伴奏のマルティネーテと複合高速リズムのブレリアという、門外漢やフラメンキートには絶対に不可能な選曲で会場を沸かせたのは、第一線のプロとして活躍するフラメンコ・アーティストの譲れない矜持だったのかもしれません。