<月刊パセオフラメンコ名作アーカイブ/1991年7月号)
第54便 「セゴビア事件」下
文/堀越千秋(画家)
先月号のつづき——
セゴビアに有名な「くちばしの家」というのがある。家の外壁に鳥のくちばしみたいにとがった石がズラリ突き出して並んでいる。その中で学生の油絵展をやっていた。タダなら何でも入ろう、と誰も言わないが当然のように一同(マヌエル・アグへ夕、モラオ、ホアン・コレア、ミゲル、僕) そこへ吸い込まれた。ズラリ学生さんたちの絵が並んでいる。
モラオ「おッ、これは何派ってんだ?チアキ、これはキュビスムだろ?」
僕「キュビスム風だなァ」
モラオ「そうだろ。そいじゃこれは何だ?」
「まァ、シュールレアリスムだね」
「そうだろ。これもそうだな。みろ、マヌエル。これはシュールレアリスムだ」
僕は慌てて奥の方へ逃げる。
パティオのベンチに、思いがけない美人が座っていて展覧会の番をしている。僕がなんとなくその辺にいると、たちまち文盲どもが追いついてきた。空き缶のように空しい顔をして会場を漂っていたマヌエル(アグヘタ)が、たちまち生気を取り戻 した。